米穀卸の社会的責任を果たすため中長期的視点で経営基盤強化に取り組みます。
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代表取締役社長 |
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鎌田 慶彦 |
当上半期においては、全国的な米不足と流通の混乱によって「令和の米騒動」と呼ばれる事態になりました。当社は、木徳神糧グループの社会的使命と認識している米の安定供給を最優先に、多様な仕入先からの調達や、放出が始まった政府備蓄米を活用し、総力を挙げて工場での精米と全国への迅速な出荷に努めました。仕入価格の変動を適時適切に販売価格に反映させていただくことができたことに加え、米不足によって店舗における特売が減少したことなども今回の営業利益の増加の主な要因となりました。これほどの大幅な増益は環境変化による限定的な事象と考えていますが、営業利益の増加は、長年続いた「米余り」環境下で薄利多売の構造的な低収益体質を改善するために取り組んでおり、本牧工場を閉鎖し桶川工場に集約するなどの、製造効率の向上や製造コストの低減努力の成果でもあり、今後も収益の安定化を見据えて構造改革に取り組み続けてまいります。
今回の米不足は、記録的猛暑や豪雨による収穫減・精米歩留まりの悪化、生産コストの上昇、インバウンド需要や物価高による消費の増加、さらにはひっ迫感を受けた買い急ぎなど複合的な要因が重なった結果だと捉えています。
当社は引き続き「必要なお米を必要な方へ確実に届ける」という企業としての使命に取り組んでまいりますが、その第一は安定的な調達です。近年の猛暑、大雨、渇水等によってコメの収穫量と品質が変動するという課題に対し、当社は「にじのきらめき」を中心とした高温耐性・多収性に優れた銘柄の普及を進めています。高温障害による収量減少をリスクと捉える生産者が多いなか、生産エリアは着実に広がっています。そして、生産者に米を作っていただく一方で、調達したコメを安全・安心な製品として迅速に出荷・販売してこそ、安定供給が実現します。工場での品質・衛生管理を徹底するとともに、会社のガバナンス体制も含めて、消費者に安心して買っていただける体制を強化してまいります。
また、安定的な調達を維持するには、農家が稲作を継続できる再生産価格を確保することが重要です。今回の事態で消費者の皆さまに、米の価格についてさまざまな見方があるという認識が広まったと感じますが、正常な価格形成の促進は、消費者にとっても公正かつ多様な選択肢を得ることにつながります。当社としても、消費者にとって買いやすく、生産者にとって将来にわたって米の生産を継続できる価格を目指して流通に携わってまいります。
さらに当社は従来から米国やタイなどから外国産米を輸入し、食文化の多様化に貢献してまいりましたが、国産米の供給リスクが残るなか、日本国内における外国産米への一定の需要は継続しており、消費者の選択肢を増やす取り組みとして、ニーズに応じた販売を行ってまいります。
今回の「令和の米騒動」では「卸が米を買い占めている」「複数の中間業者がマージンを取る多重構造で価格が高騰している」といった誤解も見受けられましたが、当社の米穀事業は、「全農を中心とした集荷業者から玄米を仕入れ、精米工場で精米し、実需に販売する」というシンプルなものです。大半の販売先はお米が穫れる前に決まっており、不適切な行為は一切ありません。一方で、今回の件は日本人の米への関心の高さを改めて示しました。当社は、精米機能を持つ米穀卸の社会的役割の重要性と存在意義を再認識し、今後も取り組みを進めてまいります。
現中期3ヵ年経営計画では、営業利益率1%以上という最終年度目標を2年目で達成しました。米穀事業については仕入基盤の強化に加え、化石燃料の使用量削減や節水につながる新たな無洗米加工方式「UMBP(ウルトラマイクロバブルプロセス)」を各精米工場に導入し、ブランド化、拡販を進めています。海外では、連結子会社であるベトナムのアンジメックス·キトク(AKJ)、中国の木徳(大連)貿易、タイのキトク・タイランドの売り上げも好調に推移し、ベトナムでは海外初となるUMBPを導入し、高評価を得ています。飼料・鶏卵事業においても、米穀事業と連携して新たな販売先を開拓し、順調に業績を伸ばしています。
私は社長就任以来、「事業領域の拡大」をテーマに掲げ、会社横断的な情報共有やアイデアの発案を推進してまいりました。その結果、新規事業を開拓する基盤が構築されつつあると感じています。一例がUMBPで発生する副生水(米のとぎ汁)の資源化への取り組みで、肥料化・飼料化・バイオマス燃料化など、多角的に事業の可能性を調査・研究しています。次期中期経営計画においては当社グループが有する経営資源をさらに発掘・活用し、事業領域拡大への取り組みを深化させることを目指し、計画の策定に着手しています。
今回の「令和の米騒動」を通じて頂戴したさまざまなご意見を真摯に受け止めると同時に、多くのステークホルダーの皆さまからの「木徳神糧がんばれ」という温かいご声援に深く感謝しております。折しも、当社は2025年7月には株式分割を行い、より保有していただきやすい環境を整えました。また、8月の第2四半期決算開示のタイミングで年間業績予想を上方修正するとともに、増配を決めました。この局面において株主様への利益還元は重要と捉えており、将来の設備投資と内部留保の充実も踏まえた上で、業績に応じた配当を行ってきたいと考えています。
一方で、多くの皆さまの期待に応えるためには、人的資本経営を通じた当社グループ全体の成長が不可欠です。現中期経営計画期間には公平なベースアップに加え、育児・介護休業制度の拡充や有給休暇を時間単位で取得できる制度の導入、障がい者雇用の推進、研修の充実、譲渡制限付株式制度の導入など、さまざまな人材への施策を行っています。さらに基本的なこととして、社員への木徳神糧の理念やルールの浸透、徹底したガバナンスの強化が重要であると認識しています。
今後も「米を通じて社会に貢献する」という使命のもと、役職員一同で事業に邁進してまいります。皆さまには引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2025年9月
